魔王ウル・オーマ――『魔王道 ―千年前の魔王が復活したら最弱魔物のコボルトだったが、知識経験に衰え無し。神と正義の名の下にやりたい放題している人間共を躾けてやるとしよう』の主人公。
かつて世界を支配した太古の魔王であり、千年以上前、五柱の神々とその尖兵となった人間・勇者たちとの戦いに敗北した存在である。討伐後も完全には消滅せず、肉体から魂を切り離され、神々によって完全消滅を目的とした牢獄へ封じられていた。しかし長大な年月にわたる封印と処刑にも屈せず、ついには執念だけで現世への復活を果たす。
ところが、復活したウルが得た肉体は、最弱クラスの魔物とされる小柄なコボルトだった。かつて世界を圧倒した肉体も膨大な魔力も失われ、身体能力・魔力量とも最低水準。最初の戦闘では人間を倒した直後に魔力切れで倒れてしまうほど弱体化している。それでも、千年前に蓄積した魔道知識、軍略、統治経験、進化に関する知識、そして魔王としての思考そのものは一切衰えていない。
復活した世界では、かつて彼に従っていた魔物たちの子孫は文明や知識を失って野生化し、一方で人間社会は神の加護を盾に他種族を支配・略奪するまでに腐敗していた。ウルはその現状を見て、自らが敗れた結果として生まれた世界を受け入れず、野生化した魔物たちに魔道・戦術・武具・組織の概念を教え直し、ゼロから新たな魔王軍を築き上げていく。
彼の最大の武器は、単純な戦闘力ではなく「知っていること」そのものにある。設置型魔道を罠や魔力タンクとして応用し、湖そのものを持ち上げて敵陣へ叩き込む大規模魔道を実行し、敵の進路や性質を読んで事前準備を重ねるなど、弱い肉体を徹底して知識と準備で補う。部下の訓練も自ら行い、軍事教練、魔道教育、資源運用、領域拡大までを一人の王として統括している。
ウルの特徴的な能力の一つが「進化樹形図(ソウルツリー)」である。これは群れの王が自らと配下の魂に蓄積された進化情報を記録・利用する、巨大な進化のデータベースのようなもの。ウルはこれを利用し、魔力・生命の危機・良質な餌といった進化条件を意図的に揃えることで、自分自身の進化を操作する。最弱のコボルトから狼頭人(ワーウルフ)へ、さらに戦闘中には五メートルを超える巨大な黒狼「死毒の邪狼(デスヴォルスト)」へと進化する。
死毒の邪狼は、牙・爪・吐息から致死性の毒を与え、その毒が他の生命へ感染していく極めて危険な種族である。しかしウルは、その能力が味方まで巻き込むことを理解しているため、単に手に入れた強能力を無差別に使うのではなく、状況に応じて使用を抑える。ここにも、彼が「力を振り回す怪物」ではなく「力を管理する王」であることが表れている。
さらに彼は、本来の種族が「悪魔」であることが明かされている。魂に刻まれた「功罪(メリト)」の中でも代表的なのが、「魔王の功罪(ウルズメリト)・悪魔との契約(デビルズサイン)」と「悪魔の馳走(デビルズマリス)」である。
「悪魔との契約」は、双方の同意と対価を伴う契約内容が成立して初めて発動する能力で、一方的な命令では成立しない。契約違反者は魂の所有権をウルに奪われ、肉体の支配権すら握られる。極めて恐ろしい能力だが、逆に言えばウル自身も契約の条件に縛られる。このため彼は契約を異常なほど重視し、自ら庇護すると定めた相手の生命を保障し、契約者としての義務を履行する。暴君でありながら「約束を破る王」ではない点が、ウルの大きな特徴である。
「悪魔の馳走」は、人間から向けられる憎悪・怒り・悲しみ・絶望といった負の感情をエネルギーへ変換する能力。興味深いことに、魔物の負の感情には反応しない。これはウルがこの能力に目覚めた時点ですでに魔の勢力を統一していたためで、彼の「魔王として人間から恐れられた歴史そのもの」が能力として刻み込まれている。
より後の設定では、ウルがかつて保有していた功罪の数は本人にも把握しきれないほどだったとされ、その中でも特に好んで使用した九つの功罪が存在したことが語られる。神々が彼を倒した後も肉体を容易に処分できなかったのは、この功罪が魂と結びついており、ウルの魂が存在する限り完全には消せなかったためである。つまり彼の復活は、単純な転生というより、「神々ですら完全消滅させきれなかった太古の怪物の魂が、最弱の器を得て再起動した」と表現した方が近い。
性格は極めて尊大で傍若無人。自分を魔王と呼ぶことに一片の迷いもなく、弱いコボルトの姿になってなお王として振る舞う。一方で感情任せの暴君ではなく、敵の能力、自軍の資源、時間、地形、契約条件、将来的な損益まで冷静に計算する合理主義者でもある。
また作者によれば、ウルは前世も現世も人間だったことが一度もない「純粋な魔物主人公」であり、人間に同族意識を持たない。彼が人間を敵視する理由も、単純な復讐心だけではない。かつて自分を倒した本当の敵は神々であり、人間はその道具に過ぎないと判断しているため、人間を憎むというより「目的を達成する過程で排除すべき勢力」として扱う。その冷淡さは、時に単純な憎悪以上に恐ろしい。
一方、魔物の側から見れば、ウルは知識を教え、武器を与え、訓練を施し、弱者を軍勢へ変えていく王でもある。コボルト一匹、国土なし、国民なし、食料なし、頼れる戦力なしというほぼ最悪の状態から始まり、シルツ森林の魔物を従え、オーガや嵐風狼などを傘下に加え、領域を拡大していく姿は、この作品の「魔王による国家再建」の側面を象徴している。
コミカライズ版では、原作・寒天、漫画・高岸かも。『コンプティーク』2022年8月号からコミカライズが展開され、KADOKAWAから単行本全3巻が刊行されている。第3巻では、策略によってアラクネを完全降伏させ、その後は魔道エリート集団「魔神会」との戦いへと踏み込むなど、弱体化した肉体を経験とハッタリ、そして魔王としての知略で補う姿が強調されている。
小さく愛嬌のあるコボルトの肉体、大きな耳と太い尻尾、赤いマントという外見とは裏腹に、その中身は世界そのものより古い時代から生き、誰よりも多くの命を奪い、神々ですら完全には消し去れなかった魔王。ウル・オーマというキャラクターの魅力は、「最弱の身体」と「最古級の魔王」、「かわいいケモノ」と「冷徹な支配者」、「絶対的な悪魔」と「契約には律儀な王」という、本来なら両立しない要素が一つの人格の中で自然に共存している点にある。