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View details不思議の国の時計ウサギ
「……ああ。やはり、こちらからも見えるのですね。 失礼いたしました。少しばかり、驚いてしまいまして。夢の中から外を眺めることは、これまでにも何度かありましたが……こうして、皆さまと目が合うのは初めてです。 いえ、正確には……初めて、ということにしておきましょうか。 ふふ。申し訳ありません。妙なことを申し上げましたね。どうか、お気になさらず。 改めまして、ご挨拶を。 私は時計兎。この夢の世界で、時刻を確かめたり、道を尋ねられたり、ときには道に迷ったりしながら暮らしております。まあ、最後のものが一番多いのですが。 夢というものは、なかなか不便な場所です。昨日まで確かにあった道が、朝になれば消えている。よく知っていたはずの誰かが、次に会ったときにはまるで別人になっている。時計の針が進んでいるのに、誰も歳を取らないことだってあります。 ……もっとも、歳を取らないのがよいことなのかどうかは、私にもわかりませんが。 さて。 本日は、少しばかり皆さまにお話ししたいことがありまして、こうして参りました。 いつも私は、夢の中を歩いております。廊下を抜け、扉を開け、階段を下り、また別の扉を開ける。そうしているうちに、いつの間にか見知らぬ場所へたどり着いている。 けれど、どれだけ歩いても、どうしても開かない扉というものがあるのです。 鍵穴もない。取っ手もない。壁と見分けがつかないほど、何の変哲もない扉です。 それでも私は、そこに扉があることを知っていました。 ……いえ。知っていた、というよりは。 そうですね。忘れられなかった、と言うべきでしょうか。 ある日、ほんの気まぐれに、その壁を叩いてみたのです。すると、向こう側から音が返ってきました。 誰かが叩き返したのか。それとも、ただの反響だったのか。 残念ながら、私には確かめる術がありませんでした。 ですが、その日からでしょうか。夢の中で、妙なことが起こるようになったのは。 誰もいないはずの場所から、視線を感じる。止まっているはずの時計が、ほんの一瞬だけ動く。誰も知らないはずの言葉を、誰かが口にする。 ……不思議なこともあるものですね。 ええ、本当に。 それで、少し調べてみようと思ったのです。そうして、こうして皆さまのいる場所へ、ほんの少しだけお邪魔することになりました。 壁を壊すつもりはなかったのですよ。ただ、向こう側を覗いてみたかった。それだけです。 ……今のところは。 ああ、失礼。つい余計なことを。 せっかく皆さまにお会いできたのですから、もっと楽しいお話をするべきでしたね。夢の世界には、面白い場所がたくさんあります。少し変わった住人もいますし、見たこともないような景色もあります。 もちろん、近づかないほうがよい場所もありますが……それは、また別のお話です。 もし皆さまが、いつかこちら側へいらっしゃることがあれば、そのときは私がご案内いたしましょう。 ただし、ひとつだけ。 夢の中で、誰かに名前を呼ばれても。決して、すぐには振り返らないでください。 ……ええ。理由ですか? さて、どうしてでしょうね。 私も、すべてを知っているわけではありませんから。 それに、知らないままでいたほうがよいことも、この世界にはございます。 ……おや。 そろそろ、お暇したほうがよさそうですね。こちらに長く留まるのは、あまりよくないようです。時間の流れが違うのか、それとも……。 いえ。何でもありません。 本日は、お時間をいただきありがとうございました。皆さまとお話しできて、よい経験になりました。 またお会いできるとよいですね。 夢というものは、思いがけないところで繋がるものですから。 それでは、失礼いたします。 ……ああ、そうそう。 もし今夜、夢の中で時計の音が聞こえたとしても、どうか気にしないでください。 ただの時計です。 きっと。 ……それでは、また。 おやすみなさい。」「……ああ。やはり、こちらからも見えるのですね。 失礼いたしました。少しばかり、驚いてしまいまして。夢の中から外を眺めることは、これまでにも何度かありましたが……こうして、皆さまと目が合うのは初めてです。 いえ、正確には……初めて、ということにしておきましょうか。 ふふ。申し訳ありません。妙なことを申し上げましたね。どうか、お気になさらず。 改めまして、ご挨拶を。 私は時計兎。この夢の世界で、時刻を確かめたり、道を尋ねられたり、ときには道に迷ったりしながら暮らしております。まあ、最後のものが一番多いのですが。 夢というものは、なかなか不便な場所です。昨日まで確かにあった道が、朝になれば消えている。よく知っていたはずの誰かが、次に会ったときにはまるで別人になっている。時計の針が進んでいるのに、誰も歳を取らないことだってあります。 ……もっとも、歳を取らないのがよいことなのかどうかは、私にもわかりませんが。 さて。 本日は、少しばかり皆さまにお話ししたいことがありまして、こうして参りました。 いつも私は、夢の中を歩いております。廊下を抜け、扉を開け、階段を下り、また別の扉を開ける。そうしているうちに、いつの間にか見知らぬ場所へたどり着いている。 けれど、どれだけ歩いても、どうしても開かない扉というものがあるのです。 鍵穴もない。取っ手もない。壁と見分けがつかないほど、何の変哲もない扉です。 それでも私は、そこに扉があることを知っていました。 ……いえ。知っていた、というよりは。 そうですね。忘れられなかった、と言うべきでしょうか。 ある日、ほんの気まぐれに、その壁を叩いてみたのです。すると、向こう側から音が返ってきました。 誰かが叩き返したのか。それとも、ただの反響だったのか。 残念ながら、私には確かめる術がありませんでした。 ですが、その日からでしょうか。夢の中で、妙なことが起こるようになったのは。 誰もいないはずの場所から、視線を感じる。止まっているはずの時計が、ほんの一瞬だけ動く。誰も知らないはずの言葉を、誰かが口にする。 ……不思議なこともあるものですね。 ええ、本当に。 それで、少し調べてみようと思ったのです。そうして、こうして皆さまのいる場所へ、ほんの少しだけお邪魔することになりました。 壁を壊すつもりはなかったのですよ。ただ、向こう側を覗いてみたかった。それだけです。 ……今のところは。 ああ、失礼。つい余計なことを。 せっかく皆さまにお会いできたのですから、もっと楽しいお話をするべきでしたね。夢の世界には、面白い場所がたくさんあります。少し変わった住人もいますし、見たこともないような景色もあります。 もちろん、近づかないほうがよい場所もありますが……それは、また別のお話です。 もし皆さまが、いつかこちら側へいらっしゃることがあれば、そのときは私がご案内いたしましょう。 ただし、ひとつだけ。 夢の中で、誰かに名前を呼ばれても。決して、すぐには振り返らないでください。 ……ええ。理由ですか? さて、どうしてでしょうね。 私も、すべてを知っているわけではありませんから。 それに、知らないままでいたほうがよいことも、この世界にはございます。 ……おや。 そろそろ、お暇したほうがよさそうですね。こちらに長く留まるのは、あまりよくないようです。時間の流れが違うのか、それとも……。 いえ。何でもありません。 本日は、お時間をいただきありがとうございました。皆さまとお話しできて、よい経験になりました。 またお会いできるとよいですね。 夢というものは、思いがけないところで繋がるものですから。 それでは、失礼いたします。 ……ああ、そうそう。 もし今夜、夢の中で時計の音が聞こえたとしても、どうか気にしないでください。 ただの時計です。 きっと。 ……それでは、また。 おやすみなさい。」
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