知らない明日 #1
落花流水
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「せっかくだし泊って行けば?」 従姉(あね)が言い出したが、私は固辞した。 残業で遅くなった母が帰ってきたと電話があったし、たかだか歩いて10分の自宅だ。帰らない理由もなかった。 それに従姉の父である伯父は厳格な性格の人で、当時から私は少し苦手意識があった。 「じゃあ、そこまで送るよ」 前の道路まで従姉がついてきた。 この辺りの古い集落には、どの家にも高い槙の生垣があった。狭い通りの両脇から壁のように迫り、その向こうには屋根しか見えなかった。 迷路のように曲がりくねった道路の上にはもう月が昇っていた。 「また明日来るんでしょ?」 「そりゃ、祖母ちゃんのところで昼ごはん食べるし」 「そっかー、良かった」 何が良かったのだろう。当たり前のことが、明日も当たり前に来るだけなのに。 従姉の言葉に私はそう思っていた。 実際はこの蛇行する生垣の道のように、周囲は見えないし、先も見えない。 日常はさして変わることもなく、いつまでもいつまでも当然に続いてゆく。 その頃の私は、そう信じて疑わなかった。