Ideal
それから長い長い時間が経ったある日のこと。 イドラは、いつものように新しい場所を求めて空を翔けていました。 ふと気がつくと、小高い丘の上に、柱と屋根のある大きな建造物が見えました。 「あれは何かしら。」 気になったイドラが近づくにつれ、他にもだんだんと沢山の白い建造物が見えてきます。 それは見知らぬ街。 そこではヒトが群れを作って暮らしていました。 イドラが旅をしている長い長い間に、「ヒト」という動物が生まれ、文明を築いていたのです。 イドラは街の上空を飛び、その様子を観察してみることにしました。 食べ物をやり取りするヒト、荷物を運ぶヒト、話に花を咲かせるヒト。 沢山の人々で賑わっています。 そして、街にある広場では、立派な髭をたくわえたヒトが椅子に腰掛け、集まった人々に難しい話を聞かせていました。 その話を熱心に聞く人々の中に、一際美しい娘がいることに、イドラは気が付きました。 「美しいヒトだわ。」 イドラは思いました。その美貌に吸い寄せられるように、イドラは広場に降りていきます。 近くにあった木の枝に止まり、もう少し近くで様子を見てみることにしました。 相変わらず髭のヒトが話している内容は難しくてよく分かりませんでしたが、その話を受けて合点がいったように頷いたり、イドラと同じように首を傾げたりする娘の様子に、イドラは目が離せませんでした。 そうしている内に髭のヒトは話を終え、集まっていた人々は散り散りに去っていきました。娘も同じように広場を後にしようとしましたが、イドラの視線を感じたのか、ふと振り返ると踵を返して彼女の方へとやってきました。 「綺麗な鳥ですね。あなたも彼の高説に耳を傾けていたのでしょうか。」 娘はイドラに向かって微笑みかけます。綺麗な娘に「綺麗」と言われて、イドラはとても嬉しくなりました。 「哲学する鳥ですか。ふふ、何やら運命じみたものを感じますね。こうして出逢ったのも何かの縁、少し触れ合っていきませんか。」 娘はイドラに向かって腕を差し出します。どうやらここに乗れということのようです。イドラは言われるがまま彼女の腕に飛び移りました。 しかし、イドラの足先が娘の柔肌に触れた途端、今までの動物たちのように娘の姿もどこへともなく消えてしまいました。 「やはり、皆いなくなってしまうのですね。」 イドラは独り呟きました。彼女のようなヒトは、他の動物たちと比べて何かが少しだけ違うような気がしていました。ですから、やはり彼女との交流も今までは何かが変わるのではないかと、イドラはどこか淡い期待を抱いていたのです。 それを裏切られてしまったイドラは、とてもがっかりしました。 しかし、娘はどこかへ消えてしまいましたが、イドラ自身には変化が起きていました。 何だか考えがすっきりとまとまるように感じるのです。 心なしか目線も今までより高くなったような気がします。 そして、その澄み切った思考と変わった視点によって、今まで頭の中に押しとどめていただけの記憶に、理解が追いついてきたのです。 自分は形而上のイデアから滴った雫で、動物の影だということ。 形而下の動物に触れることでそれらの存在と溶け合い、自身を補完することができるということ。 溶け合った存在たちをもとに自分の姿を形作ることができるということ。 その他にも、様々なことを理解しました。 「頭が冴え渡るような気分です。文明、文化。実に高い知能を持っていますね。それに、美術的な造詣のみならず、美術的な造形……とても優美です。」 イドラはヒトの姿を気に入りました。 「もっと沢山の美しく優れたヒトに触れれば、ワタシはさらに美しくなるはず。」 先ほどがっかりしたことなどすっかり忘れたイドラは、理想的な自分を追求するために広場を後にしました。
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Oculto por el autor
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