45【炭火戦士プリティハーツ】
――数時間後。 ザァァァァ…… 波の音。 遠くで、誰かの声がする。 「大丈夫か!?」 「女の子だ!」 「意識はあるか!?」 モツ: 「…………」 重たいまぶたを、 ゆっくりと開く。 ぼんやりとした視界。 青い空。 白い雲。 そして―― 心配そうに覗き込む、ライフセーバーの顔。 ライフセーバー: 「聞こえるか?」 モツ: 「…………ここ……どこ……?」 ライフセーバー: 「海岸だ。君、沖で浮いていたんだぞ」 モツ: 「……海……?」 身体を起こそうとする。 しかし、 「……っ」 まだ力が入らない。 ライフセーバー: 「無理するな。救急車を呼ぶか?」 モツ: 「だ、大丈夫……です……」 ライフセーバー: 「本当に?」 モツ: 「……はい……」 ライフセーバーは、少し不思議そうな顔をする。 ライフセーバー: 「それにしても……」 モツ: 「……?」 ライフセーバー: 「君、変なんだよ」 モツ: 「え?」 ライフセーバー: 「沖で見つけた時、意識はなかった。でも――」 ライフセーバーはモツの身体を見る。 ライフセーバー: 「不思議なくらい、外傷がなかった」 モツ: 「…………」 ライフセーバー: 「普通なら、あれだけ沖まで流されてたら、もっと何かあってもおかしくないんだけどな」 モツ: 「……そうなんですか?」 ライフセーバー: 「ああ」 ライフセーバーは首を傾げる。 しかし、それ以上は追及しなかった。 モツは周囲を見渡す。 見慣れた海。 穏やかな波。 海岸で遊ぶ人々。 何も変わっていない。 モツ: 「…………」 ふと、自分の手を見る。 普通の手。 変身していたはずの衣装もない。 身体も元の姿に戻っている。 モツ: 「……あれ?」 ライフセーバー: 「どうした?」 モツ: 「……なんでもないです」 モツは自分の髪に触れる。 濡れている。 服もずぶ濡れだ。 なのに―― なぜか身体には、 ほんの少しも寒気がない。 モツ: 「…………」 自分でも理由が分からない。 ライフセーバー: 「立てそうか?」 モツ: 「はい……たぶん」 モツは立ち上がる。 ふらつきながらも、 なんとか自分の足で歩く。 モツ: 「……私……何してたんだっけ……」 頭の中に、 断片的な映像が浮かぶ。 巨大な隕石。 紫色の煙。 赤い瞳。 巨大な咆哮。 そして―― 「ホルモン」 モツ: 「…………」 思わず立ち止まる。 モツ: 「……ホルモン?」 しかし、 返事はない。 モツ: 「…………」 しばらく待つ。 何も起こらない。 モツ: 「……夢……だったのかな」 そう呟いて、 モツは自分の頬をつねる。 ギュッ。 モツ: 「……痛い」 夢ではない。 でも―― あんなものが現実だったなんて、 もっとありえない。 モツ: 「……変な夢」 そう結論づける。 そして、 「ありがとうございました」 ライフセーバー: 「気をつけて帰れよ」 モツ: 「はい」 モツは海岸を後にした。 夕暮れの道を、 一人で歩いていく。 モツ: 「……お腹すいた」 その言葉に、 モツのお腹が、 ぐぅぅぅ…… モツ: 「…………」 モツ: 「帰ったらお父さんに何か作ってもらお」 そして―― 何事もなかったかのように、 モツは家へ帰っていった。 しかし。 モツの知らないところで、 海岸に打ち上げられた流木の陰。 小さな黒い塊が、 ひっそりと蠢いていた。

