うかがい
「ストーカーに付きまとわれてるの」 由紀が言った。 呼吸が乱れている。口に出して言うのは勇気が要ったろう。彼女の息が整うのを辛抱強く待つ。 「大丈夫、ゆっくりでいいからな」 やがて落ち着いた彼女は、絞り出すようなか細い声でぽつりぽつりと語り出した。 「気がついたのは、ノリくんと映画館デートをした日の帰り道なんだけど」 あの日のことか。私もよく覚えている。幅広い世代で人気を博している映画を観に行ったのだ。彼女が感動のあまり目を赤く腫らしていたのが印象的だった。思わず携帯電話で撮影してしまったっけ。 「駅で別れてから一人で帰る途中、なんか嫌な感じがして……振り返ったら、男の人がいたの。もちろん、そのときはそれについて何とも思わなかったんだよ。でも……その後も、後ろで同じ足音がずっとしてて」 「うん」 「帰り道が偶然同じなのかもと思って、気まずいし早く追い抜かしてもらおうと少し歩調を落としたんだけど……それでも距離が変わらないの」 由紀の歩くペースに合わせて歩を緩める……確かに意図的だ。 「わたし怖くて、早足で歩いたんだけど、それでも着いてきて……本当に怖くて、でも振り返れなくて、走って逃げたの」 由紀の声がさらに大きく震える。話すために頭の中で追体験をして、興奮してしまっているらしい。 「大丈夫、落ち着いて。今は俺がいるから」 「うん、うん……ごめんね」 鼻をすする音がする。 「謝るなって。由紀は何も悪くない」 「うん……」 涙ぐんだ声で由紀は続ける。 「走ってたら、いつの間にか足音が聞こえなくなってて、そこでやっと振り返ったら……誰もいなくなってた。家の近くまで来てたから、そのまま入ったの」 「それから?」 「警察に電話したけど、まだ何も被害が出てないから動けないって……パトロールを増やすとしか言ってもらえなかった」 「ルールだから仕方ないんだろうけど、やるせないな」 「それから何日かは明るいうちに帰れたんだけど……昨日、バイトで遅くなって……また追いかけられたの!」 由紀の声が上擦る。 「走って逃げて、それ以上は追ってこなかったんだけど……家に着いたら、ポストに……」 「!」 「『次に誰かに告げ口したら殺す』って!だから、怖くてノリくんにも電話できなくて」 「でも……今日は電話してくれただろ?それはどうして?」 「今日は駅でその男の人を見たの!それで……本当に怖くて。手紙のこともあったけど、どうしても耐えられなくて、ノリくんに電話して一緒に帰ってもらったんだ」 「そうだったのか……怖かったね、由紀。明日になったらもう一度警察に行こう。安心して、今夜は俺がずっといるから」 「ノリくん……」 「……先にシャワー、浴びてきてもいいかな」 「うん……」 男の言葉に安心したのか、先ほどとは売って変わって甘い声で応じる由紀。 浴室の扉が閉まる音がした。

