人魚といた日日 ― 第六話
落花流水


潮風が一瞬強まった。 人魚の髪が、風にあおられてぶわっと巻き上がった。 その様子を見て、男は思わず浜辺へ打ち上げられたわかめの切れ端と見比べてしまった。 視線に気づいたのか、人魚が頬を膨らませた。 「あーた、うちの髪はきれいな瑠璃色だったべよ……生まれた時はな。海に浸かってるうちに変わったんだけんど」 そんなことを人魚が前に話していたのを、男は思い出した。そして両親は髪の色にちなんで「瑠璃《るり》」と名付けたのだ、とも。 もっとも、男は今まで決してその名前を口にしなかったのだが。 「なぁ、瑠璃」 「!」 「……いや、なんでもない」 つい口にしてみたくなった。ただ、それだけだった。