泡沫に漂う #1
落花流水
法師蝉が鳴き始め、否が応でも夏の終わりを意識しなくてはならないころ。 私はあの時、完全に従姉(あね)に心奪われていた。 夏休みの間、どれだけの本を読めるかと密かに立てた計画は、とっくにとん挫していた。 その日も、手に取った文庫本の文字列に目が滑っては戻るをひたすら繰り返し、同じページをめくることもできないでいた。 従姉は祖母の家の縁側に腰かけ、足をぶらぶらさせながらラムネを飲んでいた。 無心に青緑色のガラス瓶からラムネを飲む従姉の横顔に見惚れ、手にしていた小説のことなどすっかり忘れていた。 「うん……?」 突然従姉がこちらへ振り向いた。 彼女を凝視していたことがバレるのが恥ずかしかった私は、思わず手元へ目線を戻した。 「ねえ、今度の土曜日の夜。暇でしょ?」 「まぁね」 私はわざと冷静を装い、興味ない振りをした。 「じゃ、花火行くよ。せっかくの夏の一大イベントなんだし、行かなきゃ損だよね」 毎年、この町で開かれている花火大会だった。 ただ中学一年になった私は、急に地域の祭りへ参加することに格好悪さやダサさを感じていた。 なにより近隣の市町村からも大勢の見物客が集まる。 人混みが苦手な私は、あの雑多で華やかな賑わいへ混じることに抵抗感もあった。 一瞬だけ躊躇した。 しかし、それでも従姉が私を誘ったのだ。 表面上は不承不承、しかし内心は小躍りしたい気分だった。 全く現金な少年だった。 「一緒に行く人、他にいないしねー」 従姉の言葉に、自分だけが唯一の相手なのだ、と私は勝手に好意的に解釈した。 縁側にポツンと残されたラムネ瓶。 その中のビー玉のように、私も抜け出せない狭い世界の中で上下しているだけだった。