上田秋成「吉備津の釜」

吉備津の釜 婦とふの養やしなひがたきも、老おいての後其の功こうを知ると。咨ああこれ何人の語ことばぞや。害わざはひの甚しからぬも。商工わたらひを妨さまたげ物を破りて、垣の隣の口そしりをふせぎがたく、害の大なるにおよびては、家を失ひ、国をほろぼして、天が下に笑を伝ふ。いにしへより此の毒にあたる人、幾許いくばくといふ事をしらず。死して蟒みづちとなり、或は霹靂はたたがみを震ふるうて怨うらみを報むくふ類たぐひは、其の肉を醢ししびし(ほ)にするとも飽くべからず。さるためしは希(まれ)なり。夫をつとのおのれをよく脩をさめて教へなば、此の患うれひおのづから避さくべきものを、只かりそめなる徒あだことに、女の慳かだましき性さがを募つのらしめて、其の身の憂うれひをもとむるにぞありける。禽きんを制せいするは気きにあり。婦ふを制するは其の夫をつとの雄を々しきにありといふは、現げにさることぞかし。

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