『月影旅館事件』 探偵:闇雲那魅

西暦1998年。 旧市街の月影通り17番地に、一軒の小さな探偵事務所があった。 探偵を務めるのは、闇雲那魅。 ある冬の夜、山間にある古い月影旅館で、骨董商・榊原宗一郎の遺体が発見された。 部屋は内側から施錠され、窓にも侵入した形跡はない。机の上には止まった懐中時計、床には泥の跡、そして畳の隅には赤い簪が落ちていた。 那魅は現場を調べ、証言と時計の時刻に僅かな食い違いを見つける。 死亡時刻そのものが偽装されていたのだ。 窓の外に残された泥も、外部から侵入した証拠ではなかった。犯人は旅館内にいた人物の行動を利用し、密室そのものを演出していた。 事件は解決した。 だが、榊原の遺品を整理していた那魅は、一冊の古い黒い事件帳を見つける。 表紙には何も書かれていない。 中には過去の事件記録が手書きで残されており、最後のページだけが不自然に空白だった。 そのページの端には、誰が書いたのか分からない小さな文字があった。 ――17。 さらに、その下には薄く、 「次の記録は、まだ存在しない」 と記されていた。 那魅は首を傾げながら、その帳簿を事務所へ持ち帰った。 月影通り17番地。 その住所と、黒い事件帳。 それが後に何十年もの間、探偵たちの手を渡り続けることになるとは、この時の那魅はまだ知らなかった。 ただ、その夜。 誰もいないはずの事務所の窓辺で、一瞬だけ青白い光が揺れた。 ――CASE CLOSED.

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