第191話 二人の初めて
小谷くん「おまたせ。シオリさん」 大山さん「あ、はい…。」 ノックもそこそこにお茶を届ける小谷くん。 対する大山さんは頬が赤くて、少し焦っているようだった。 小谷くん「あ、ごめん。もしかして熱かった?冷房かけておけばよかったね」 小谷くんの部屋は二階にあり、西日が割と入る間取りのため、夕方は割と暑くなる。 そういったことを配慮しなければならなかったと、内心少し反省する小谷くん。 対する大山さんは何だがバツが悪そうで。 大山さん「いえ、大丈夫です…!!そ、それより、この水槽にパンちゃんがいるんですよね?」 小谷くん「そうそう。見てみる」 大山さん「はい!!」 … 大山さん「少し大きくなった気がします」 水槽を眺めながら、率直な感想を告げる。 どうやら先輩金魚達とも上手く混泳が出来ているらしく、一安心だ。 小谷くん「日が沈む前にご飯を上げるんだけど、シオリさんもやってみる?」 大山さん「あの…パンちゃんのご飯を持ってきたんですけど。こっちを上げてみてもいいですか?」 カバンから取り出したのはこの日の為に準備したパンちゃんの餌。消化にも優しいちょっと高い金魚用フードだ。 小谷くん「うん。口の大きさ的にもいけそうだね。上げてみよう」 パンちゃんより先に、先輩金魚達に餌を与える小谷くん。 あえて少し粒が大きい餌をチョイスしたので、パンちゃんは食べられない。先に先輩金魚のおなかを膨らませる事で、大山さんのフードがパンちゃんに食べられる算段だ。 小谷くん「もう上げていいと思うよ」 大山さん「このくらい食べますかね?」 小谷くん「うん。いい感じだと思う」 生真面目に計量して、餌を準備する大山さんに感心する小谷くん。 自分は割と適当になりがちだから。 … 大山さん「よかった。ちゃんと食べてくれてます♪」 楽しそうにパンちゃんの食事姿を眺める大山さん。 その姿に小谷くん自身もほっこりしてしまう。 日々の餌やりはルーチンワークになってしまっている。自分には忘れかけた感情や感動が、彼女にはある。 … 大山さん「今日は家に呼んでくれて、ありがとうございます…」 2人並びながら金魚を眺めていると、ふと大山さんが呟くように言った。 小谷くん「僕の方こそだよ…」 彼女の言葉が急に現実を意識させる。頬が熱い。 大山さん「わ、私、男の人の家に来たの初めてで……。親にもナイショで来たので、ちょっとドキドキしてます……」/// 小谷くん「僕も。女の子を家に呼ぶなんて初めてなんだ」 大山さん「本当、ですか……?」 疑いというより驚愕の声。その声音は少し嬉しそうで。 大山さん「キーホルダー。飾ってくれてるんですね。嬉しいです」 初めてのデートの時に勇気を出して渡したイルカのキーホルダー。 私の決意。 彼への初めてのプレゼント。 小谷くん「可愛いし、その…仕舞っておくには勿体ないかなって…」/// 我ながら下手な言い訳だと、小谷くんは思う。 だってあの時。間違いなく嬉しかったのだから––。
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