第195話 イヤイヤリュウセイくん
リュウセイくん「ヤー!にぃちゃ!!ヤーー!!」 小谷くん「……」 あれから大山さんは無事に帰宅できたようで、一安心…と思ってた矢先。 小谷家のリビングでは、弟のリュウセイくんの機嫌がすこぶる悪かった。 その理由は――。 リュウセイくん「おねぇちゃがいいっ!!」 小谷くん「リュウセイ?アサギお姉ちゃんならそこにいるよ?」 弟の意図がわかってて、あえてそう提案する。 何せ母親がそばにいるのだから。 アサギちゃん「はい、リュウセイくん、抱っこしようねー」 リュウセイくん「……」 言われるままアサギちゃんに抱っこされるリュウセイくん。 そのままアサギちゃんの胸に顔を埋めたかと思うと。 リュウセイくん「ヤー!!オネェチャ!ちがう!!」 小谷くん「リュウセイ!?」 アサギちゃん「ええっ!?」ガーン 違わないけど、違う。 そのニュアンスを伝えられないリュウセイくんは、純真無垢な言葉の刃を振り回すように泣いた。 エルザさん「あらあら?アサギちゃんはリュウちゃんのお姉ちゃんじゃない、どうしたの〜?」 姉から母親にバトンタッチ。 リュウセイくん「……」 不満そうな弟。 流れるように母親の胸に顔を埋めると、ゴニョゴニョと不服そうな声を漏らし始めた。 エルザさん「あらら?いつもなら機嫌もすぐに直るのに…。熱はなさそうね……?」 アサギちゃん「……」 小谷くん「……」 ちらり目配せする兄と妹。 どうやら弟は大山さんのお胸がお気に入りになったらしい。 エルザさん「アサギちゃんがお姉ちゃんじゃないって言うのも不思議よね〜?どうしちゃったのかしら?」 アサギちゃん「な、なんででしょうかね?アハハ……」 小谷くん「難しい年頃なんじゃない?」 と適当に誤魔化す。 そこに。 ツキナさん「あれ〜?前に貰ったクッキーがなーい」 小谷くん「!?」 台所から妹の声。 今回、大山さんを招待することに関して、ツキナちゃんには知らないふりをして貰っている。 しかし、そのお茶請けにクッキーを出した事について念頭になかったようで、つい口を滑らしてしまったようだった。 エルザさん「あら?そこの戸棚にしまってなかった?」 ツキナちゃん「うん。なーい」 エルザさん「あら、本当ね。流し台にリュウちゃんのコップとガラスのコップが2つ。コウちゃん、もしかして、今日お友達を呼んで……」 ふと母親の動きが止まった。 何かを思い返すように宙を見つめる。 小谷くん「……」 アサギちゃん(あちゃー……) ツキナちゃん(……ハッ!!?) エルザさん「……」 お姉ちゃんと呼んで、泣き止まない末っ子。 使い終えたコップが3つ。 消えたお茶菓子。 この3つの点が今、1つの線に繋がった。 エルザさん「まあまあまあ!!もしかして、コウちゃん、女の子をお家に呼んだのー!?どうして、お母さんに言ってくれなかったのー!?」 小谷くん「……」 テンションがエベレスト通り越して、一気に成層圏までぶち抜いた母親が興奮した面持ちで問い詰めてくる。 これはもう、隠せそうにない。 これから起こるであろう母親の尋問と暴走に頭痛が止まらない。 小谷くんは諦めたようにため息をつき、アサギちゃんは弟妹を連れて、避難するのだった。
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