51【炭火戦士プリティハーツ】
――放課後。 モツは家に帰ってきていた。 店の暖簾をくぐる。 モツ: 「ただいまー」 父: 「おう、おかえり。学校どうだった?」 モツ: 「普通」 そう答えながら、モツはエプロンを身につける。 炭を運び、テーブルを拭き、皿を並べる。 いつもの仕事。 いつもの店。 いつもの日常。 それなのに―― モツ: 「…………」 ふと手が止まる。 昨夜の夢が頭をよぎる。 巨大な赤い瞳。 そして、 『目覚めよ……禁忌の巫女よ……』 モツ: 「…………」 「おーい、モツちゃん」 モツ: 「え?」 顔を上げる。 そこには、店の常連客のおじさんが座っていた。 常連客: 「ぼーっとしてるけど、疲れてんのか?」 モツ: 「ああ……いや、大丈夫です」 常連客: 「学校はどうだ?」 モツ: 「それが……」 モツは少し考える。 そして、冗談めかして笑う。 モツ: 「友達に、お祓い行けって言われました」 常連客: 「お祓い?」 モツ: 「最近、変な夢ばっかり見るからって」 常連客: 「ははは! そりゃ大変だ」 モツ: 「毎晩ですよ。真っ暗なところに、でっかい目が出てきて……」 常連客: 「ほう」 モツ: 「それで『禁忌の巫女よ……目覚めよ……』とか言うんです」 常連客: 「…………」 モツ: 「……なんですか?」 常連客の表情が、 ほんの少しだけ変わった。 常連客: 「それ、本当にそう言うのか?」 モツ: 「え?」 常連客: 「『禁忌の巫女』って」 モツ: 「……はい」 常連客: 「…………」 しばらく黙った後、 常連客は小さく笑った。 常連客: 「いや……まさかな」 モツ: 「何です?」 常連客: 「この辺にさ、ちょっと変わった神社があるんだよ」 モツ: 「神社?」 常連客: 「ああ」 常連客はビールを一口飲む。 常連客: 「昔から、どんな病気でも治すって言われてる神社でな」 モツ: 「どんな病気でも?」 常連客: 「そう。病院でも治らなかった病気が治ったとか、寝たきりだった人が歩けるようになったとか……」 モツ: 「……すご」 常連客: 「まあ、噂だけどな」 モツ: 「それで?」 常連客: 「そこにはな――」 常連客は声を落とした。 常連客: 「生き神さまがいるって言われてる」 モツ: 「…………生き神?」 常連客: 「ああ。神社の奥に住んでいて、病気や怪我だけじゃなく、人についた悪いものまで祓ってくれるって話だ」 モツ: 「…………」 モツの顔から、冗談っぽさが消えていく。 常連客: 「まあ、俺は会ったことないけどな」 モツ: 「その神社……どこにあるんですか?」 常連客: 「おや?」 ニヤリと笑う。 常連客: 「お祓いに行くんじゃなかったのか?」 モツ: 「ち、違います!」 モツは慌てて顔を背ける。 モツ: 「ただ……ちょっと気になっただけです」 常連客: 「ふーん」 モツ: 「…………」 その時。 店の奥から、 ポッ…… 小さな音がした。 モツ: 「……?」 振り返る。 厨房の炭火。 赤々と燃えているだけ。 モツ: 「…………」 しかし、その炭の奥で―― ほんの一瞬。 紫色の火が揺らめいた。 モツ: 「…………」 誰にも気づかれないまま、 炭火はいつものように燃え続けていた。

