구경
.
구경
こんばんはと女は言った。一日中歩いていたであろう汗と埃の臭いが粒子となって僕に洗礼を浴びせ、その奥の、ほのかな香のようなものが顔をのぞかせて、僕を伺っている。君はなにか困りごとがあるでしょう?隠したってダメ。私にはわかるんだ。つまり、君が、私のお客様になるかどうかを。私は探偵をやっている。女はどこからともなく取り出した名刺を僕に差し出した。探偵。探偵だって?僕は名刺の名前をろくに確認できず、ただ、探偵という名刺が疑問符をもって回転した。いったいどうして、僕は探偵なんかに縁があるんだろう。夜風がなびく。今日は台風の前だからか不思議な風が吹いていた。その風は、僕の脇を回遊魚のように通りすぎ、僕は女と一対一で対峙せざるをえない状況にやんわりと隔離していた。