人魚といた日日 ― 第二話
落花流水
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男はふと思った。 リモートワークで良いのなら、何も東京へ居続ける理由もない。 そう思い立つと早かった。東京のアパートを引き払い、海沿いにある古い一軒家を格安で借りた。 知り合いの親戚が、かつて先祖代々住んでいたという家だった。 東京から逃げるようにして、こんな僻地までやって来たのに、たいした理由はなかった。単に男が都会の暮らしに飽き、疲れただけだった。 その家に、ある日、人魚姫を名乗る女がやってきた。海から上がってきたという。 ただし、見た目はほとんど人間の女で、腰に魚の尻尾を付けていた。こんな鄙びた田舎でアニメかなにかのコスプレだろうかと最初は思った。 そして、その女は勝手に家に上がり込み、そのまま居着いてしまった。 押しかけ女房というやつだった。 「うちは、あーたのことがこげん好きと言うとるのに、あーたは何も言ってくれん」 「なんで肥後弁なんだ」 「……じゃあ、ご当地に合わせて」 人魚は軽く咳払いし、言い直した。 「うちは、おめえに惚れてんだっぺ。……これで良いのか?」 「わからん」 そういう男だった。 人魚が何を言っても、だいたいこんな調子である。全くもって不愛想な男だった。