人魚といた日日 ― 第一話
落花流水
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ある日、また人魚が言った。 「うちがこれだけ好きと言ってるのに、あーたはちっとも返してくれない」 「本当に好きな相手には、そう気安く好きだなんて言わないものだ」 「……!」 人魚の顔がぱっと明るくなった。 「じゃあ……」 男は少し黙った。それから、ぼそりと言った。 「好きだ」 「むー!」 人魚は頬を膨らませた。怒っているらしい。 だが、尻尾が嬉しそうにぱたぱたと床を叩いていた。 別の日のことである。 「人魚の肉を食べると、不老長寿になれるんよ」 人魚は突然、話を切り出した。 「今でも生き飽きてるのに、これ以上生きてどうする?」 「……」 「第一、人間の姿をしたお前を食べる気なんてしないよ」 「誰がそんなグロテスクな話をしてる」 人魚は呆れた顔をした。 「肉を食べるって……そういうことだぞ❤」 「断る」 そんなくだらないやり取りをしながら、いつの間にか日々が過ぎていった。 男は、ときどき思う。 自分はどうせ、そんなに長くは生きないだろう。 東京を離れたのも、別に新しい人生を始めたかったからではない。 ただ、もう都会で暮らす理由がなくなっただけだった。 そして、この見知らぬ土地でも、見つけるつもりはなかった……はずだった。